今回も言葉の違いが認識にどの様な影響を及ぼすのかについて紹介します。内容は『ことばと思考』(今井むつみ著)に書かれているものです(以下、本書と略します)。まず、始めに言葉と認識について著者の結論を紹介します。

言語の様々な部分で、世界を切り分けるカテゴリーのつくり方、カテゴリーの境界が異なり、それぞれの言語の話者は、言語がつくり出すカテゴリーの境界によって、知覚や記憶を歪ませ、言語が推論や意志決定など、思考の重要な部分に大きな影響を与えているのだとしたら、やはり、異なる言語の話者の認識は、まったく同じであるとはいえないだろう。(『ことばと思考』今井むつみ著 P206)

前回の記事(『思考と言葉がどの様に関係するのか ② -文化による色の言葉の数の違いと認識の関係について-』)では、言語による色の言葉の違いがどの様に認識に影響を与えるのか、ということについてご紹介いたしました。

今回は、位置を指し示す言葉の違いが、どの様に認識に影響を与えるのか、ということについて綴っていこうと思います(詳しい内容は、『ことばと思考』(今井むつみ著)に書かれていますので、興味あるかたはご一読ください)。

「前・後・右・左」という言葉を持たない言語

私たち日本人は方向を指し示すとき「前・後・右・左」という言葉を普段用いますが、言語によってはこうした相対的にモノの位置を示す言葉を持たない言語があります。

その一つが、オーストラリアのグーグ・イミディル語なのですが、この言語の話者たちは、相対的な位置関係を表す言葉がないので、モノの位置を示す際に絶対座標(東西南北)でモノの位置を表します。

言語の違いが認識にどの様な影響を及ぼすのか

絶対座標を用いる言語の優れた方向感覚

伝書バトが遠く離れた場所からでも巣の場所を正確に捉えることの出来る優れた方向定位能力を「デッド・レコニング」(dead reckoning)と言いますが、絶対座標でモノの位置を示す言語の話者はこの能力が優れているのか?という事に端を発した実験が行われました。

実験を行ったのは、オランダのマックスブランク研究所のチーム。対象は、グーグ・イミディル族をはじめ絶対座標を用いるいくつかの言語の話者です。本書では、グーグ・イミディル族とメキシコ先住民のテネパパ族に対する実験の内容が紹介されています。各部族の特徴は以下の通りです。

特徴
グーグ・イミディル族狩猟民族で、日常的に非常に遠くまで獲物を追いかける生活をする
テネパパ族農耕民族で、自分の村周辺から遠く離れることはあまりない

以下、実験結果について本書の内容を引用します。

グーグ・イミディル族の協力者に対しては、車で100キロほど離れた場所に連れていき、そこから「家の方向」を指さしてもらった。テネパパ族の協力者に対する実験では、5キロから10キロほど離れた場所に歩いて移動し、そこにある、窓のない家の中で「家の方向」を指さしてもらった。

どちらの話者も、非常に正確に(誤差は5度以内)家の方向を言い当てることができた。実際、研究者たちがGPS(全地球測位システム)で正確な方角を測って確かめるのを見て、協力者たちは、機械が正確かどうかを確かめるために、彼らに方角を指さしてもらっていると思ったそうだ。

経路について語るときに自然に用いられるジェスチャーでも、自分の向きとは無関係に、モノのある方角の方を正確に指さすジェスチャーが見られた。

比較のために、オランダ人で、頻繁に森にキノコを探しにいく人たちを対象に、森の中を移動してもらい、同じように「家の方」を指さしてもらった。オランダ人たちの指さす方向は、バラバラで、絶対座標を用いる言語話者とは比べ物にならなかったということだ(『ことばと思考』今井むつみ著 P91)

相対的位置関係の言葉を持つ言語と絶対座標でモノの位置を表す言語との「同じ関係」の違い

オランダのマックスブランク研究所のチームは、相対的位置関係の言葉を持つオランダ人と絶対座標で位置をモノの位置を示すテネパパ族に対して、面白い実験を行いました。

一列に並んだ動物のオモチャをオランダ人とテネパパ族に見せて、その後、180度向きを変えて、動物の列を再現させるというものです。 下の図が分かりやすいでしょう。

『ことばと思考』今井むつみ著 P94

左側が最初の並べ方です。そして、右側が180度回転した後の並べ方です。相対的な位置関係の言葉を持つ話者は、回転する前と後も、”同じように”左から順に「ネズミ・ネコ・イヌ」と並べています。一方、絶対的座標軸でモノの位置を示す言語の話者は、”同じように”南から順に「ネズミ・ネコ・イヌ」と並べているのです。

一口に「同じ」と言っても、相対的位置関係の言葉を持つかどうかで「同じ」内容が変わってくるのです。

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