少し前からご紹介させて頂いているのは、謎の人間「エム」から笑いに関する理論を伝授され、仕事に悩むビジネスマンが成長していくという、小説仕立てのビジネス書(?)です。物語を通じて、笑いに関する様々な理論が紹介されています。

キマ語を使う不思議なおじさんと自宅近くの居酒屋で出会った物語の主人公(以後、「彼」と略す)。漫才師を目指すため、落語家の某師匠の弟子だったというエムの過去に興味を引かれ、居酒屋において、笑いに関する理屈の手ほどきを彼はエムから受けた。本人から聞く所によると、エムは「笑いの理屈や働きかけを活用して、色んな人の悩みを解決するコンサル会社」の社長だそうだ。成り行きで彼はエムが行う相談者のコンサルティングのサポートを行うことになる。今回は、そのサポートのお話-。

「場づくりの法則」

初めてクラスを受け持つ女性教師の悩み

エムが社長を務める「笑いの科学株式会社」は彼(この物語の主人公)の自宅から自転車で10分ほどの所にあるらしい。

エムに書いて貰った簡単な地図に記された☆印に到着したのだが、想像していた風景とは違った。雑居ビルの一室に事務所があるのかと思っていたが、目の前に広がる敷地には、大・小の石の彫刻像が置いてある。そして、広場の入り口付近には「石の心 シノダ石材店」と彫刻された、大理石で出来た看板が立っている。

敷地の奥には石材店の事務所と思われるプレハブがあるのだが、断りもなしに私有地に入ることに彼は躊躇していると、「ちょきまっと!」。聞き慣れたエムのキマ語が空から降ってきた。見上げると、プレハブの二階からエムが顔を出している。どうやら、知人の事務所を間借りしているらしい。

彼(主人公)の仕事内容は、依頼主とエムとのやり取りの議事を取ること、そしてエムが指示するタイミングでラジカセの再生ボタンを押すことだった。

早速、依頼者が事務所に入ってきた。歳の頃は、20代半場だろうか。シックなワンピースに身を包んだ、ショートヘアの清楚で綺麗な女性である。ホームページから予約申込みでいらっしゃったミヨシさんだ。

彼女は市内の中学校の教師を務めており、一年生のクラスを担当している。ミヨシさんの悩みはこうだった。

隣のクラスはベテランの先生が担任を受け持っており、尚且つリーダー的な人気者がいるせいかクラスにまとまりがある。自分は今年初めてクラスを受け持ったこともあり経験不足、なんとかして運動会のクラス対抗応援合戦に向けてクラスをまとめたい、その為のアドバイスが欲しい、とのことだった。

エムはミヨシさんに「方法論」はないがクラスをまとめる「理屈」はあると言った。そして、ゴホンッ!と咳払いを立て続けにした。事前にエムと彼の間で取りきめたラジカセの再生ボタンを押せという合図だ。そのことを半場 忘れていた彼は慌ててラジカセの再生ボタンを押す。

すると、ラジカセから流れたのは ”チャラララッタ♪チャー♪チャチャー♪” というドラえもんが秘密道具を四次元ポケットから取り出す時の効果音だった。そして、その効果音に合わせてエムは叫んだ。「前説の理屈~!三つの要素~!」

場づくりの理屈

元漫才師のエムの話によると、テレビ番組の本番前には、場を作って盛り上げるために前説というものがあるらしい。場づくりが上手くなると、モチベーションを上げて前向きに行動して貰うことが上手くなるから、この理屈は会社の営業やマネジメントでも使えるとのことだった。そして、三つの要素とは ”一体感” “集中力” ”能動性” の三つだ。

要素 ① ”一体感”

要素 ① は一体感だ。前説経験のあるエムが言うには、一体感が豊壌されておらず、なんとなくバラバラな状態では、舞台のうえからどんな大物がジョークを飛ばしてもドンッ!という爆笑が生まれてくることがないらしい。

要素 ② ”集中力”

要素 ② は聞き手の集中力だ。人は常に集中できない。だからこそ、こちらが集中して貰いたいときに相手の集中力を引き出すための積み重ねが大切とのことだった。

要素 ③ ”能動性”

要素 ③ は聞き手の能動性だ。相手が一歩引いて舞台を眺めている様な状況は望ましくなく、無理やり連れてこられたようなおじさんでも”せっかく来たんだからワシも楽しもう”という心を意図的に作ることが大切とのことだった。

三つの要素を引き出すためにプラスの行動を敢えて一緒にする

三つの要素を引き出すために、落語やテレビ番組ではどの様な工夫しているのか。それは「プラスの行動を敢えて一緒にする」というものだった。エムの観察によると、落語家さんの前説ではくどいくらに小咄を、ADさんの前説ではしつこいくらいに拍手の練習をさせるらしい。

”前説が登場する” ⇒  ”ジョークを言う” ⇒  ”笑う=プラスの行動” ⇒  ”場ができる” という理屈だ。みんなで笑うだけで一体感が豊壌され、集中力が引き出され、能動性が生まれてくるという理屈だ。

女性教師の試み

常にクラスが笑いに包まれる様な雰囲気を自分に作れるだろうかと悩む女性教師のミヨシさんにとって参考となったのは、ADの前説だった。ジョークを伸ばすことは出来ないが、拍手の練習くらいのことは彼女でも出来る。そこで、思いついたのが、朝礼の後のハイタッチだ。

「例え、最初は盛り上がらなくても継続することが大事」と真面目なアドバイスをエムはミヨシさんに告げた後、皆で互いにハイタッチしつつ「俺が住んでいるのはイェーイ(家)!」という駄洒落によってその場は締めくくられた。

ミヨシさんのこの試みがどうなったのか-。気になる方は『笑いの科学株式会社』(夏川立也著)を手に取ってご覧ください。

「場づくりの法則」まとめ

本書の付録、笑いの理屈に関する法則集の中で、「場づくりの法則」について以下の様な説明がなされています(『笑いの科学株式会社』249-250頁)。

場づくりの法則

良い状態や理想の関係で交わされている言葉や行動や態度(プラスの行動)をあえてできるように工夫するだけで、一体感・集中力・能動性が豊壌され、場が変わるという法則。場が行動を変え、行動が成果を変える。より良い成果を生み出せる集団が誕生する。

法話の場で、笑いに関する理屈を活用できないか、という思いでこの本を手に取って読んでいるんですが、この本に書かれている笑いの理屈のうちのいくつかは既に法話の場で活用されているんだなあという感想を持ちました。

その一つが「場づくりの法則」です。「プラスの行動」と言えるのかどうか分かりませんが、法話の前には参列者全員で参加する行動があります。

例えば、参列者全員で、正信偈等のお勤めをすること、仏教讃歌を歌うこと、ご本尊に向かって全員で合唱・礼拝すること、等です。

また、法話中に全員で参加する行動を促す先生もいらっしゃいます。

例えば、参列者全体に、「合掌してお念仏を申しましょう」と促すことや、休憩後の頭の体操と言って、一方の手が勝ち続ける(負け続ける)様に自分の右手と左手でジャンケンするよう参列者に呼びかけたりすることがそれに当たるのでしょう。

法話に節をつける節談説教では、法話者が節をつけてご法義を語った後に、お念仏をする「受け念仏」という慣習がありますが、これも参列者の一体感を生む一つの行動なのでしょう。

浄土真宗及び仏教について、他の方もいろいろ記事を書いてくださっています。 詳細は下記URLをクリック。

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